「Ties-4 "Ties Manouche"」、リリースから半年が経ちました。
CDをお買い上げいただいた皆様、どうもありがとうございました。
今更…ではありますが、CDをより楽しんで聴いていただくために、そして自分自身を振り返るために、以前書いていたご紹介文のようなものをこちらに記しておきます。
【曲解説の前に…】
このCDの演奏は、アルトサックス:藤井政美、コントラバス:是盛博司、マカフェリギター:ニシウラトモアキのトリオで、ジプシージャズに焦点をあてた作品です。
ジプシージャズ(ジャズマヌーシュ)とは、1930年代にギタリストのDjango Reinhardt(ジャンゴ・ラインハルト)と、バイオリニストのStephane Grappelli(ステファン・グラッペリ)が中心となって始めた、弦楽器だけのジャズコンボの演奏スタイルです。
ジャンゴとグラッペリのバンドは、フランス・ホット・クラブ五重奏(Quintette du Hot Club de France)と名乗り、当時ヨーロッパを中心に大変人気を博しました。
バンドの大きな特徴としては、マカフェリギターと呼ばれる少し特殊な(他の音楽ではまず使われない)アコースティックギターが使われます。
そのギターが、ソロやメロディをとるだけでなく、ドラムの代わりにリズムを刻み、スウィング感を出しています。
そのため、通常はリードギター以外に、別でリズムギターがいるのが基本なのです。
しかし、このユニットTies Manoucheでは、あえてそのスタイルを踏襲するのではなく、ギターは、今回ニシウラひとりのみです。
レコーディングの際に、追加で別で録って、リズムギターを重ねることもできましたが、ほとんどの曲で、あえてリズムギターを加えていません。
これによって、特にギターソロの際に制約も出てきますが、演奏の自由度やダイナミックさが増すと考えています。
また、ジプシージャズでは、ギター以外だとバイオリンやクラリネットがリードを取るのが定番で、通常サックスが加わることは少ないのです。
その一方で、CDの録音曲は、ほぼジプシージャズのスタンダード定番曲で構成しました。
以上より、簡潔に考えをまとめますと、このユニットでは、ジプシージャズをより「ジャズ」的なものへ昇華して、自分の中で新しい試みにしたいと思っています。
とはいえ、今回のCDでは高橋由季さんのステキなジャケット(個人的に超お気に入りです♪)のイメージ通り、リラックスして聴いて…、もっと言えば聴き流してもらえるくらいのものを目指しました。
みなさまの日常のBGMになることを願っています。
【録音曲について】
1. Troublant Bolero
ジプシージャズの開祖であるジャンゴ・ラインハルト、後期の名曲のひとつです。
リズムに関して、この曲はスウィングではなく、ボレロ……しかしボレロとついていますが、一般的なラテンの「ボレロ」のリズムではなく、「ジプシーボレロ」と呼ばれる、軽やかなリズムが特徴です。
伸びやかなベースイントロから、ギター、そしてサックスが重なっていく広がりをお楽しみいただければと思います。
余談ですが、ジャンゴはこのリズムを使って録音した曲は、実はこの1曲のみだと思われますが、これほどまでにジプシージャズのリズムの1種として普及しているのは面白いところです。それだけ名曲ということですね。
2. Douce Ambiance
[甘い;素敵な雰囲気]というタイトルの、これもジャンゴの名曲です。
「これぞジプシージャズ!」といえるアグレシッブかつ、スウィング感のある演奏になりました。
マイナー調の美しいメロディの曲ですが、部分的に(少し無茶な)転調していたりしています。しかし、それを感じないところが、ジャンゴの作曲能力の高さではないかと思います。
メンバーそれぞれのソロや掛け合いも聴きどころ満載で、一発録りならではの緊張感もあります。
3. Bei Dir War Es Immer So Schon
ドイツの古い映画の主題歌(原曲は歌ものです)として作られたバラード曲です。
ジャンゴもやっていますが、現代ジプシージャズの巨匠・Bireli Lagrene(ビレリ・ラグレーン)の素晴らしい演奏があります。
特に藤井政美氏の、甘いサックスに乗せた美しいメロディ、これに尽きるかと思います。
4. Swing 42
ジャンゴ作曲で、Minor SwingやNuagesと並んで、ジプシージャズを代表する曲のひとつと言えます。
ちなみに、タイトルの”42”というのは、1942年のという意味ですが、実際の記録によると録音したのは1941年9月のようです(笑)。
発表(発売)するタイミングを考慮してそうしたのか…。
真意は不明ですが、他にもジャンゴの曲では、Swing(39、41、48)などがあります。
今回のCDでは、実はこの曲のみ唯一、ギターソロ中にリズムギターを重ねて録音しています。
リズムギターがある中、無い中ではギターソロのアプローチなんかも変わってきますので、そのあたりもお楽しみいただければと思います。
そしてギターソロ後に、グルーブしつつ展開する是盛博司氏のベースソロも聴きごたえあります。
5. Seul Ce Soir
これはジャンゴの曲ではありませんが、フランスのシャンソン曲です。
タイトルは「今夜ひとりで」という意味。
だからということではないのですが、CDではこの曲が唯一、ギターがテーマメロディーをとっています。
個人的にも大好きな曲でして、この曲の演奏イメージは、僕の心のギターアイドル・Tchavolo Schmitt(チャボロ・シュミット)です。
そのため、ソロもチャボロばりの、ダイナミックかつアグレッシブな展開に、必然と持っていきたくなるのです。
6. Place De Brouckere
ジャンゴの曲で、今回のCD収録曲の中で、最もアグレッシブなナンバーだと思います。
複雑なキメや、テーマ、ソロ、リズムにもそれが現れており、かつ絡み合うライブ感がCDでも感じていただけると思います。
…しかしながら、これは是非ライブで、生で感じていただきたい1曲でもあります!
また、ジャンゴもこの曲を愛していたようで、様々な録音が残ってます。
7. Si Tu Vois Ma Mere
CD最後の曲は、実はジャンゴも録音していない曲です。
サックス奏者・Sidney Bechet(シドニー・べシェ)の曲で、パリをテーマにした近年の映画「Midnight in Paris」(監督:ウディ・アレン、日本では2012年公開)の主題歌としても使われました。
ちなみにウディ・アレンは、著名な映画監督でありながら、ニューオリンズジャズのクラリネット奏者でもあり、ジプシージャズにも非常に見識があります。
ウディ監督の「ギター弾きの恋」という映画は、ジャンゴに憧れるアメリカのジャズギタリストを描いた素晴らしい映画で、そちらも大変オススメです。
話がそれましたが、この曲のみジプシージャズのスタンダード曲でもありません。
しかし、このユニットを始めるときに、絶対やりたい曲のひとつでした。
その理由はあえて説明するまでもなく、CDを聴いていただければ分かっていただけるのではないでしょうか。
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